ビジネスの世界で成功をおさめるために、避けて通れないのが「ミス」という存在ですよね。
資料の誤植やスケジュールの見落とし、あるいは重大な判断ミス。
些細なことならまだしも、一度の大きなミスがキャリアを揺るがしたり、会社の信用を失わせたりすることもあります。
そんな「ミス」に悩むビジネスマンの方に、ぜひ知ってほしい考え方があります。
それが、MITの博士が提唱する「エラーフリー」という考え方です。
本書『ERROR FREE 世界のトップ企業がこぞって採用したMIT博士のミスを減らす秘訣』は、精神論ではなく、「科学的に」ミスを根絶するための具体的な方法を教えてくれる一冊です。
「エラーフリー」を習慣化し、あなたのキャリアのためのショトカ(近道)を見つけましょう。
成功と失敗を分けるのは「ミスの徹底排除」
多くの人は、「成功する人」と「失敗する人」の違いを、「才能」や「努力」あるいは「運」のせいだと考えがちです。
しかし、数多くの企業分析の結果、成功と失敗を分ける唯一の要素は「エラーの数」というシンプルな事実が明らかになりました。
失敗とは、エラーが蓄積した結果に過ぎません。
逆に言えば、成功とは「エラーが起こり得ない状態」、つまり「エラーフリー」を実現することによってのみ、長期的に維持できます。
どれほど素晴らしい戦略を立てても、日々の業務で無数のミスを重ねていれば、意味がありません。
エラーフリーとは、精神論や気合いの話ではなく、ビジネスで損益を直接左右する「技術」なのです。
著者「邱強」氏は、世界のトップ企業がなぜ突然没落してしまうのかを30年間にわたり調査し、8万件以上の事例をデータベース化してきました。
その結果、あらゆる歴史的な事故や企業の倒産の背後には、必ずと言っていいほど「ヒューマンエラー」が潜んでいることを突き止めました。
デカルト流!疑うことから始めるエラーフリー思考
本書の根底にはあるのは、哲学者ルネ・デカルトが著した『方法序説』の精神です。
デカルトは、真理に到達するために、
「明白に真であると認識できるもの以外、一切を認めない」
「複雑な問題は、できるだけ小さな要素に分割する」
といった原則を掲げました。
これをミスの削減に応用すると、仕事の質が劇的に変わります。
- 「絶対に正しい」と思い込まずに、すべての前提を疑ってみる
- 大きな問題をそのまま扱わず、対処可能な小さな要素に細かく分割する
- 分割した要素のうち、まずは最も簡単で解決しやすい部分から着手する
- すべての問題が解決されたか、見落としがないかを徹底的に再検証する
例えば、東京で成功して売れたので、大阪でも同様に売れるだろうと仮説をたてるとします。
- まず、「東京の成功要因は、大阪でも共通である」という前提を疑います。
- その後に、「競合他社の数」「顧客の年齢層」「地域の慣習」などに細かく分割します。
- 大阪の特定データを収集し、「東京にはない強力な競合」という事実が見つかれば、戦略を修正することで、多額の投資が無駄になるエラーを未然に防げます。
もし出店して売れなかった場合、「運が悪かった」ではなく、明らかなヒューマンエラーだということがわかります。
この習慣を取り入れると、感情やバイアスに左右されない「エラーが入り込む余地のない思考」を構築することが可能になります。
日々の仕事一つひとつに対して、デカルトのように「これを真と認めてよい根拠は何か?」と自問自答する習慣が、あなたのミスを激減させる鍵となります。
自分の「思考パターン」を知る
エラーフリーを目指す上で、重要な視点となるのが、自分自身の脳の特性を理解し、思考の偏りを管理することです。
人間は誰しも、無意識のうちに得意な思考パターンを頼っていますが、それが同時に「特定のミスを犯しやすいポイント」になっていることが多いです。
著者は、人間を「左脳」・「右脳」、「内向」・「外向」の4つタイプで分類しています。
- 「左脳」タイプは、論理的で、細部には強いが全体像を見落としやすい
- 「右脳」タイプは、直感的で、独創的だが細かい手順や数値でミスしやすい
- 「内向」タイプは、自分の考えを重視しすぎてコミュニケーション上のミスをしやすい
- 「外向」タイプは、行動力はあるが、論理的な分析が必要な場面でできにくい
まずは、自分がどのタイプかを知り、その特性が引き起こしやすいミスの傾向を把握します。
そして、自分一人で完璧を目指すのではなく、自分の欠点を補えるような、反対の特性を持つ仲間を見つけ補い合うことで、ミスを最小限に抑えられます。
自分の性格や思考パターンを客観的に観察し、それをコントロールする意識を持つことが、エラーフリーへの非常に有効な手段となります。
ヒューマンエラーの正体を知る
エラーを防ぐためには、まず「相手」を知らなければなりません。
著者は、ヒューマンエラーを3つのタイプに分類しています。
- 知識型エラー
前例のない状況での判断ミスで、最も深刻な結果を招きやすい - 規則型エラー
決められたルールに従わない、あるいはルールに不備があるミス - スキル型エラー
習熟した作業での「うっかりミス」
エラーを減らす秘訣は、「知識型」→「規則型」→「スキル型」に変換していくことが大切です。
例えば、「顧客のクレーム対応」でみてみましょう。
- 知識型エラーの発生
各担当者が、経験やその場の雰囲気で対応方法を判断している状態。
不適切な回答や重大な見落としが発生しやすい。 - 規則型エラーに変換
クレームの内容を「技術的トラブル」「接客不備」「配送遅延」などに分割し、それぞれのケースで、マニュアルを作成し、「この言葉にはこう返す」といった具体的なルールを決めます。 - スキル型エラーに変換
マニュアルの確認不足などがないように、ロールプレイをします。
マニュアルを確認しなくても、適切な言葉遣いや対応ができる状態を作り上げます。
今の仕事の中に「なんとなく」で進めている部分があれば、それは改善の余地があるサインです。
ヒューマンエラーを細分化し、適切な対応をすることで、エラーが発生する確率は劇的に低下します。
「注意力のビー玉」をコントロールする
著者は、「1日に使える集中力の総量」があり、それを「ビー玉」として例えています。
作業の難易度に応じてこのビー玉を消費し、残数が少なくなると、どれほど優秀な人でも判断力が鈍り、ミスを犯しやすくなるという仕組みです。
これを正しく管理することで、スキル型エラー(うっかりミス)の発生率を下げることができます。
- 強い感情(悩み・怒り)を伴う出来事は、一度に多くのビー玉が失われます。
- 午後3時頃は必ずビー玉が1つ失われます。
- 注意力のピークは33歳前後であり、その後は10年ごとに使えるビー玉が1つずつ減っていきます。
例えば、朝一番のメールで、取引先から理不尽なクレームメールが届いていたとします。
その内容を読んで「嫌な気分だな」「どう返信しようか」とモヤモヤと考え込むこと自体が、ビー玉を消費しています。
結果、午後に「見積書の作成」という、高い質が求められる作業に回すべきビー玉が不足し、計算ミスや記載漏れを引き起こしやすくなってしまいます。
つまり、「自分は今のビー玉は何個残っているか?」という視点をもち、スケジュールを工夫するだけで、ミスが激減します。
特大弱点を見つけ出せ
本書の中で、警鐘を鳴らしているのが「単一脆弱点」という概念です。
これは、たった一つのエラーが、システム全体を致命的な崩壊に導く「弱点」のことです。
どれだけ完璧なシステムやプロジェクトでも、この「特大弱点」を見逃すと、取り返しのつかない大失敗を引き起こすことになります。
例えば、
- ある業務の進め方を「ベテランのAさん」しか把握しておらず、Aさんがいなくなると全体の業務が完全にストップする。
- プロジェクトの承認が、1人の管理職のサイン一つで全て決まってしまい、その判断が間違っていればプロジェクト全体が失敗する。
- 膨大なデータを分析する際、前提となる計算式がたった一つに依存しており、その式に不備があれば全ての出力結果が台無しになる。
- 1つの取引先に依存していて、そこが倒産すると共倒れになる。
といった、「ここが崩れたら終わり」というポイントは必ず存在します。
エラーフリーな働き方を目指すなら、こうしたポイントに対処し、依存先を分散させることが重要です。
今日からできる行動
まとめ
仕事のミスは才能や運ではなく、「技術」です。
「完璧な人間はいない」というのは事実かもしれませんが、「エラーを発生させない仕組み」を構築することは可能です。
まずは先入観を捨て、物事を細分化して事実を検証することによって、エラーを極限まで減らす「エラーフリー」の習慣をつけましょう。
科学的なアプローチで着実な改善を積み重ねていきましょう。
あなたの働き方が変われば、巡り巡って周囲の環境もより良くなっていくはずです。
「エラーフリー」の視点をもつことで、あなたのキャリアも人生も激変させるショトカ(近道)を見つかるはずです。


