『池上彰の行動経済学入門』から学ぶ、無駄遣いを無くす思考術

お金・キャリア

さて、いきなり質問です。

「失敗率5%の服」と「成功率95%の服」が並んでいるとすれば、どちらを買いたいですか?

多くの人は「成功率95%」を魅力的に感じると思います。

ですが実はこれ、どちらも全く同じ意味です。
それなのに、私たちは表現のされ方ひとつで、ついお財布の紐を緩めてしまいます。

人間は、いつでも合理的に得な方を選べるわけではありません。むしろ、感情やその場のノリ、そして脳が勝手に行う判断によって、おかしな選択を繰り返しています。

本書『池上彰の行動経済学入門』は、難しい専門用語が多くて敬遠されがちな行動経済学を、おなじみの池上彰氏が初心者にも分かりやすく噛み砕いて解説してくれている一冊です。

「つい買ってしまう」の裏にある仕組みを紐解き、無駄遣いを無くすショトカ(近道)を見つけましょう。

経済を動かすのは「感情」と「直感」

これまでの経済学では、人間は常に合理的な判断を下して行動する存在であると仮定されていました。

しかし、私たちは一番安くて一番品質が良いものを論理的に計算し尽くして購入しているでしょうか?
実際は、その日の気分や、お店の雰囲気、何となくの直感で買い物をすることがほとんどです。

行動経済学は、まさにこの「人間は必ずしも合理的に行動するわけではなく、感情や直感によって道理に合わない選択をする」という前提から出発した学問です。

私たちは日常生活において、膨大な選択肢を前にして、いちいち複雑な計算をしていられません。
なので、脳の使用量を節約するために「ヒューリスティック」と呼ばれる思考のショートカットを多用しています。

この直感は、便利な機能である一方、「思い込み」や「偏った判断」を招く原因にもなります。

例えば、テレビCMで何度も見かけた商品を、他の安くて良い商品よりも優れていると直感的に信じ込んでしまうのもこの一種です。

つまり、感情でお金が動く仕組みを知らないままでいると、知らず知らずのうちに他人の手のひらの上で無駄遣いをさせられてしまうのです。

「期間限定」や「ついで買い」の誘惑

カフェで「期間限定スイーツ」を買ってしまったり、コンビニのレジ横にあるお菓子を「ついで買い」してしまったりしたことはありませんか?

実は「期間限定」「ついで買い」には、人間の心理を突いた行動経済学の罠が仕掛けられています。

まず、「期間限定」や「数量限定」といった言葉に私たちが猛烈に惹かれてしまうのは、「希少性の効果」と呼ばれる心理が働いているからです。

手に入りにくいものほど価値があると思い込んでしまう脳のクセにより、本来なら今すぐ必要ではないものまで、焦って購入してしまうのです。

次に、レジ横に並んでいるお菓子や小物をついついカゴに入れてしまう「ついで買い」にも、面白いメカニズムがあります。

これは、買い物という一連の選択行動を繰り返した結果、脳がエネルギー切れを起こす「決断疲れ」という状態に陥っていることが原因です。

レジにたどり着く頃には、合理的な判断力や自制心が低下しており、脳のショートカット機能が「まぁ、これくらいならいいか」と手を出してしまいます。

売り手側がどのようにして私たちの「決断疲れ」や「焦り」を狙っているのかを知るだけでも、無駄な衝動買いを大幅に減らすことができます。

「損をしたくない」は無駄遣いにつながる

行動経済学の最も重要とも言える基盤が、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンらが提唱した「プロスペクト理論」です。

この理論が一言で表しているのは、人間は利益を得る喜びよりも「損失」を避けたいと強く願う心理を持っているということです。

例えば、「1万円を拾ったときの嬉しさ」と「1万円を落としたときのショック」を比べたとき、後者のショックの方が何倍も大きく感じられるということが研究でわかっています。

私たちは、とにかく「損をすること」を極端に嫌うように脳が設計されています。

一見すると、損を避けたいなら無駄遣いもしないはずだと思うかもしれません。
しかし、この心理こそが、逆に私たちを無駄遣いへと引きずり込む原因になります。

その最たる例が「サンクコスト(埋没費用)」です。 これは、すでに支払ってしまったお金や時間、労力を惜しむあまり、これ以上続けても損をすると分かっているのにやめられなくなる現象を指します。

例えば、クレーンゲームで「ここまでお金を使ったのだから、今やめたらこれまでのお金がすべて無駄になる」と、景品の価値以上のお金をつぎ込んでしまうこともその一種です。

無駄遣いを防ぐ第一歩は、過去に支払ったコストは返ってこないものと割り切り、未来の利益だけを見て冷静に損切りをすることなのです。

目を曇らせる「現在バイアス」

ダイエットを明日からに引き延ばしたり、夏休みの宿題を最終日まで残してしまったりした経験は誰にでもあると思います。

お金に関しても同様で、人間は「将来得られる大きなメリット」よりも「目の前の小さなメリット」を優先しがちな性質を持っており、これを「現在バイアス」と呼びます。

例えば、「1年後に2万円をもらえる権利」と「今日いまここで1万円をもらえる権利」を提示されたとき、論理的に考えれば1年待って2万円をもらう方が得です。

しかし、多くの人が「今日いまもらえる1万円」の魅力に抗えず、目先の利益を選択してしまいます。

「老後の豊かな生活のために毎月貯金する」という将来の大きなメリットよりも、「今この瞬間に欲しい服を買ってスッキリする」という目の前の快楽を優先してしまうのです。

この現在バイアスは非常に強力で、自分の意志の力だけで抑え込むのは困難です。「来月から節約する」という決意は、来月になればその時の「現在」に負けてしまい、先延ばしにされてしまいます。

無駄遣いを防ぐためには、単に気合を入れるのではなく、「現在バイアス」が働くことを見越した仕組みづくりが必要不可欠になるのです。

「フレーミング効果」と「松竹梅」の罠

人間の意思決定は、情報の受け取り方や選択肢の提示方法によって、驚くほど簡単に左右されます。

全く同じ事実を伝えているにもかかわらず、表現の仕方(フレーム)が変わるだけで、受け取る印象がガラリと変わる現象を「フレーミング効果」と呼びます。

最初の「失敗率5%の服」と「成功率95%の服」の問いを思い出してください。

全く同じ事実(100人中95人が成功し、5人が失敗する)なのに、成功というポジティブなフレームに視点を誘導されると、リスクを忘れ、安心感からついサイフの紐を緩めてしまいます。

このように、情報の「光の当て方」を変えるだけで消費者の購買行動を自在に操ることができるのが、フレーミング効果の本当に恐ろしいポイントです。

また、選択肢の数や配置による心理誘導も巧妙です。 お店で商品を選ぶ際、選択肢が多すぎると脳が疲れてしまい、結局何も買わずに帰ってしまうことがあります。

これを「選択のパラドックス」と呼びますが、企業はあえて選択肢を「3つ」に絞ることで、私たちの購入を促します。 これが有名な「松竹梅(ゴルディロックス効果)」の罠です。

レストランやサービスプランで、以下のような価格設定を見かけることはないでしょうか。

  • 松プラン(最高級・高価格)15,000円
  • 竹プラン(スタンダード・中価格)10,000円
  • 梅プラン(リーズナブル・低価格)7,000円

このように3つの選択肢を提示されると、人間は「一番安い梅は少し物足りないし、一番高い松は贅沢すぎる。無難に真ん中の竹にしておこう」という心理が働きます。

売り手側は、実は最初から「竹プラン」を一番売りたいと考えており、それを買わせるために、ダミーとして極端に高い「松」と安い「梅」を配置しているのです。

自分の意思で真ん中を選んだつもりになっていますが、実は売り手の思惑通りに動かされているのです。

今日からできる行動

  • 不要なサブスクを即座に解約する
    • 人間は一度決定された設定や状態をそのまま維持しようとする強い性質があるため、企業は「無料お試し」から有料課金へ自動継続するシステムを多用しています。過去の「サンクコスト(埋没費用)」に囚われず、今日やめる決断を下しましょう。
    • 例えば「最初の30日間無料」というキャンペーンに釣られて加入したまま、まったく使っていないサブスクなどを見直しましょう。
  • 松竹梅の選択肢に出会ったら1日考えてみる
    • 人間は真ん中を選びたがるという性質があります。「松竹梅の罠」から逃れるために、その場で直感的に判断するのではなく、一度時間を置くことで、脳を強制的にリセットします。
    • 例えば、ネット通販でスマートウォッチを購入する際、「1万円の格安モデル」「3万円の標準モデル」「6万円の超多機能モデル」を比較して「3万円が一番無難そう」とカートに入れそうになったとき、ブラウザを一度閉じて丸一日放置し、自分が本当に求めている機能が1万円のモデルで十分補えるかを再確認しましょう。
  • 先取り貯金をする
    • 「お金が余ったら月末に貯金しよう」という決意は、現在バイアスに直面した瞬間に必ず敗北するように人間の脳が設計されています。 自分の意志に頼るのを諦め、お金を使う前に自動的に貯蓄へ回る習慣をあらかじめ構築しておくことが大切です。
    • 毎月の給料日に、自動的に1万円が「投資信託」や「定期預金口座」へと天引きされる自動入金サービスを設定し、自分の意思で動かせる手元のお金をはじめから「1万円少ない状態」に固定してしまいましょう。

まとめ

私たちがつい無駄遣いをしてしまうのは、決して意志が弱いからではありません。
脳が楽をしようと選択までの過程をショートカットしているせいです。

この脳のクセをあらかじめ理解することで、お金の無駄を減らし、賢い選択ができるようになります。

ガマンに頼る節約ではなく、自分の環境作りを実践して、他人や売り手にコントロールされない賢いお買い物ライフを手に入れましょう。

ぜひ、今日から自分の行動パターンを客観的に観察し、賢い消費者への一歩を踏み出してみませんか。

賢いお金との付き合い方を学ぶことで、無駄遣いを無くすショトカ(近道)がきっと見つかるはずです。

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