『認知バイアスの教科書』脳のクセを知って人間関係の悩みを解消する

行動術

職場やプライベートの身近な人とのすれ違いでモヤモヤすることはありませんか?

実はそれ、あなたの性格や相手のせいではなく、脳が勝手に情報を歪めてしまう「脳のクセ」が原因かもしれません。

人間の脳は生き延びるために、無意識のうちに膨大な情報を取捨選択したり、過去の記憶を書き換えたりしています。

脳科学者である西剛志先生の著書『認知バイアスの教科書』を読めば、私たちの悩みのほとんどが、脳が生き残るために身につけた無意識のシステムによるものだと分かります。

脳の仕組みを知ることで、人間関係のモヤモヤを解消するためのショトカ(近道)をみつけましょう。

そもそも「認知バイアス」ってなに?

私たちは、目の前にある現実を「ありのまま」に見ていると思い込んでいますが、実は脳が作り出した「都合の良いフィルター」を通して世界を眺めています。

この、ものごとをとらえる際の一方的な偏りや歪みのことを学術用語で「認知バイアス」と呼びます。

ではなぜ脳が、このような「ズレ」を引き起こしてしまうのでしょうか?

その最大の理由は、脳が処理しなければならない情報量が多すぎるため、無意識のうちに「情報の省略(手抜き)」を行っているからです。

日々目にする空間の情報量は、実に毎秒1,000万ビットにも及ぶと言われていますが、脳が実際に処理できるのは、わずか20〜40ビットほどしかありません。

もしすべての情報を処理しようとすれば、脳はあっという間にパンクしてしまい、命の危険に対処できなくなってしまいます。

そのため、脳は過去の経験を頼りにして、一瞬で物事を判断を行えるように、「手抜き」をするように進化してきました。

つまり、認知バイアスとは脳が省エネで生き延びるために手に入れた、生存に不可欠な「防衛システム」そのものなのです。

知っておきたい代表的な認知バイアス

人間関係がうまくいかないとき、よく「相性が悪い」「相手の性格に問題がある」と考えがちですが、これも脳のクセが邪魔をしている場合がほとんどです。

特に親しい間柄で起こりやすいのが、自分の考えていることや感情が、言葉にしなくても相手に伝わっていると思い込んでしまう「透明性の錯覚(知識の呪い)」です。

これは「これだけ長く一緒にいるのだから、私の大変さくらい分かっているはずだ」という甘えや誤解を生み出し、衝突の原因になります。

また、一度相手に対して「苦手だな」「嫌な人だな」と感じると、その先入観を補強する情報ばかりを脳が勝手に集めてしまう「確証バイアス」も強力です。

相手が良いことをしてくれてもスルーし、少しでも失礼な態度をとると「ほら、やっぱり嫌な奴だ」と確信を深めてしまうため、関係の修復が難しくなります。

例えば、

  • 長年連れ添った夫婦の間で、妻が「言わなくても家事を手伝ってくれるはず」と思い込み、何も気づかない夫に対して一人で勝手にイライラを募らせてしまう
  • 職場の新入社員がたった一度だけ遅刻したのを見て、上司が「あいつはやる気がない、だらしない人間だ」と決めつけ、その後の彼の手柄をすべて無視してしまう

こうした事例を見ると、私たちは「相手そのもの」を見ているのではなく、自分が脳内で作り上げた「ストーリー(作話)」を見て怒ったり悲しんだりしていることがよく分かります。

相手の性格を変えることは不可能に近いですが、自分の脳がどのようなバイアスに囚われているかに気づくことなら、今すぐにでも始められます。

自己理解を深めるためのバイアス

認知バイアスは、他人だけでなく、自分自身にも向けられることがあります。

仕事や勉強で成果が出ないとき、必要以上に自分を過小評価して「自分はなんてダメな人間なんだ」と落ち込んでしまうことはないでしょうか。

これには、周囲の優秀な人たちと自分を勝手に比較して自分を小さく見せてしまう「比較バイアス(コントラスト効果)」が関わっています。

周囲に大きな円が並んでいると、中心にある自分の円が実際よりも小さく見えてしまう目の錯覚と同じことが、心の中でも起きているのです。

さらに、大切な挑戦や本番の前に、なぜか掃除を始めてしまったり、スマホをいじって時間を潰してしまったりするのも、脳の仕業です。

これは「セルフハンディキャッピング」と呼ばれるバイアスで、失敗したときに「時間がなかったから」「体調が悪かったから」と言い訳ができる準備を無意識に整えているのです。

自分が傷つかないように、脳が先回りして「予防線」を張っている状態と言えますが、これに支配されると本来の力が発揮できなくなってしまいます。

そして、自分と他者を冷静に見えなくさせるもう一つの強力なクセが、他者の視点ではなく自分の視点からしか物事を見られなくなる「自己中心性バイアス」です。

このバイアスが働くと、過去の事実を自分の都合の良いようにねじ曲げて解釈してしまい、無意識に傲慢な態度を取ったり、逆に「自分だけが損をしている」と被害妄想に陥ったりします。

自己理解を深めることで「あ、いま認知バイアスが働いている」と客観的にとらえることができます。

脳の根本にある「5大バイアス」

西剛志先生は、数ある認知バイアスの中でも、人間の生存に直結し、あらゆる判断の土台となっているものを「5大バイアス」として定義しています。

  • 注目バイアス
    一度気になり始めた特定の情報や対象が、無意識のうちに頻繁に目に入ってくるようになる脳のクセです。例えば、欲しい車が決まると、街中でその車ばかりを何度も見かけるようになる現象がこれに当たります。
  • プライミング効果
    直前に受けた刺激(言葉や視覚)によって、その後の行動や思考が無意識に引っ張られてしまう現象です。例えば、「親切」という言葉をたくさん使って文章を作った人は、その後の行動も無意識に優しくなるという実験結果が出ています。
  • 比較バイアス
    脳が常に2つの対象を比較して判断してしまう性質です。私たちは絶対的な基準ではなく、周囲との相対的に価値や大きさを判断しているため、環境によって自分の立ち位置を見誤ってしまいがちです。
  • 現在バイアス
    遠い将来の大きな利益よりも、目の前にある「今現在」の快感や安定、現状維持を圧倒的に優先してしまう本能的な偏りです。例えば、「ゆでガエル」のように、少しずつ悪化していく現状維持のぬるま湯から抜け出せないのも、この現在バイアスが強力に働いているからです。
  • 作話(さくわ)
    自分の感情や思い込みによって、過去の記憶を都合よく作り替える脳の特性です。人間の記憶は録画されたビデオテープのようなものではなく、思い出すたびにその時の都合に合わせて再編集される、極めてあやふやなものなのです。

この5大バイアスは、誰もが生まれながらに持っているものであり、完全に消し去ることはできません。

しかし、この仕組みを理解していれば、逆に自分の目標達成やモチベーション向上に利用する「味方」にすることができます。

今日からできる行動

  • 強い感情が湧いたときに「これは脳のクセかも?」と自問する
    • 怒りや悲しみに襲われたときにこの問いを脳に投げかけると、感情の暴走や「作話」による勘違いを強力にストップできるからです。
    • 例えば、職場の同僚が挨拶を返してくれず、「嫌われている」と落ち込んだときに、この問いを投げかけることで「単に気付かなかっただけ」と冷静な事実に目を向けられます。
  • 自分の目標を、毎日必ず目に入る場所にセットする
    • 目標を日常的に視覚からインプットすることで、脳の「プライミング効果」と「注目バイアス」をフル活用させ、自分に必要な情報を無意識のうちに自動収集するシステムを構築できるからです。
    • 例えば、「半年後に英語でプレゼンができるようになる」という目標があるなら、職場のパソコンのデスクトップ壁紙を海外のオフィスの写真に設定し、付箋にその目標を書いてモニターの横に貼っておきます。
  • 悩みに直面したとき「もしあの人だったらどう考えるだろう?」と主語を変える
    • 自分だけの狭い視点に囚われてしまう「自己中心性バイアス」から解放され、他人の脳を借りることで、自分一人では絶対に思いつかなかったアイデアを導き出せるからです。
    • 例えば、プロジェクトの企画書でいい案が思いつかないとき、「もし、業界の第一線で活躍している憧れの〇〇さんなら、どんな一手を打つだろうか」と想像してみます。

まとめ

あなたの感じている生きづらさや他者とのすれ違いは、あなたの性格が原因ではなく、脳が生き延びるために仕組んだ「認知バイアス」によるものです。

それは使い道次第で人生のメリットにもデメリットにもなります。
本能的な「クセ」は消せませんが、仕組みを知れば味方につけることができるのです。

相手の行動にイライラしそうになったら、「これも脳のクセかも?」と一歩引いて想像してみることからはじめてみてください。

視点を増やして少しだけ広く眺められるようになれば、人間関係のモヤモヤを解消するためのショトカ(近道)が必ず見つかるはずです。

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